仙台高等裁判所 昭和26年(う)172号 判決
記録によれば、被告人に対する本件起訴状記載の訴因は殺人の事実であるのに原審は刑事訴訟法第三百十二条に従い検察官に釈明して訴因の追加又は変更を請求させるとか、或は訴因の追加又は変更を命ずるとかの措置をとらないで、原判決に於て被告人に対し傷害致死の事実を認定していることは所論のとおりである。しかし、裁判所が審理の上その判断内容の如何により、起訴状記載の訴因に含まれる事実の範囲内で、罪名を異にする他のより軽微な犯罪類型に該当する事実を認定するには、常に必ずしも刑事訴訟法第三百十二条所定の措置をとる必要はないと解すべきである。蓋し、このことによつて、その基本たる事実関係の同一性が害されることはないししかも被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞もないからである。然らば、本件の如く、起訴状記載の訴因は被告人が宮城作十郎を殺害したという事実であるのに、原審が訴因の変更等刑事訴訟法第三百十二条所定の措置をとらずに、判決において、被告人が同人を傷害して死に致したという事実を認定したのは、まさに、以上説示の場合にあてはまる場合であつて、相当と認められ、これを以て、原判決には起訴状記載の訴因以外の事実を認定した違法があるとなし得ないことはもとより、その間に原審が刑事訴訟法第三百十二条所定の措置をとらなかつたことについても、訴訟手続に法令違反があるとは云い得ない。